風流七小町略姿絵・かよひ小まち 豊国
大判錦絵揃物 38・3×25・2cm
落款:豊國画
板元:和泉屋市兵衛
七小町とは王朝の美人小野小町にまつわる七種の俗説。草紙洗・雨乞・通・清水・関寺・鸚鵡・卒都婆の各小町をいい、謡曲に扱われ、伝統画題に定着しました。浮世絵の美人画は、さらにこれを独特の見立絵に翻案してアイディアの妙を誇ります。豊国寛政期のこの七小町のシリーズは、想と技とが寸分の隙なく融和して快い諧調音を聞く思いがします。通小町はわけても優作。小町に誉恋する深草の少将の百夜通いの姿を、客筋へでも通う芸妓と送りの仲居の姿に転化したものですが、この自由な扱いが、画面を生き生きとさせています。反り身の江戸前芸者のポーズにはあか抜けした粋と張りの美を宿し、送りの女のくねった微笑姿には、色気がほのかにただよいます。版画技法は特に注目され、提燈の放射光が作る薄閣を、霧噴きによる”吹きぼかし”で現した効果は実感に添えてあわあわとした抒情味を生み出しています。提燈の光に映える芸妓の黒揚子の帯にかけた膠の効果も見逃せません。細心の工夫と配慮が隅々にゆき渡り、しかも全体に整った画調を見せています。
歌川豊国 Utagawa Toyokuni