風流七小町略姿絵・雨乞小まち 豊国
大判錦絵 揃物 37・5×25・3cm
落款:豊國画
板元:和泉屋市兵衛極印
所蔵:ギメ美術館
雨乞小町は主題が明確なだけに、好んで取られる画題ですが、それだけに見立の制約が強いです。原説話は、天下旱慧の折、小野小町が内裏の神泉苑で、雨乞いの和歌「ことわりや日のもとならば照りもせめ さりとてもまた天が下とは」を詠じて、たちどころに大雨を降らせたのがその大筋。豪雨・詠歌の短冊などが、扱われる必須の対象で、これにこだわり過ぎた趣向が浮世絵には多いようです。だが豊国のこの雨乞小町は、思い切った自由な着想で描画し、しかも守るべき見立趣向は巧みに按配しています。情人の起請でも入れてある掛け守りの袋を肌からはずし、文を手にして脛もあらわに裾を乱して廊下を小走りする美人に、折からの験雨の飛沫がかかる、何かあわただしい、しかし風情ある構図がまず佳いです。雨はもちろん感応の大雨の趣ですが、手にした趾に小町の短冊のおもかげを利かせた趣向が卓抜しています。薄墨の多い背景に、紫絵風の黒の着付けと黄の壁との対照が見事な効果をあげ、優品を作り上げています。本図の原色紹介も初めてと思います。
歌川豊国 Utagawa Toyokuni