ニ代沢村淀五郎の川つら法眼と坂東善次の鬼佐渡坊 写楽
大判錦絵37.0×25.0cm
落款:東洲斎寫楽画
板元:蔦屋重三郎極印
所蔵:ギメ美術館
この絵は切り狂言『義経千本桜』の吉野山の場に出てくる二人を描いています。川つら法眼は、吉野の検校職で、一山の衆徒頭であり、ここに義経主従はかくまわれていたのでしたが、やがて討ち手がきます。そのなかの一人が佐渡坊で、このときに用いる特殊な口髭が役名を示します。狐忠信の通力を駆使して悪人どもを散々に蹴散らしてこの場は終わります。
信義に厚い皮つら法眼と悪人佐渡坊を配するコントラストは写楽の常套手段ではありますが、ここには見事な両者相克の目覚ましい活気を盛り上げています。しかし盛り沢山の騒がしすぎる画面構成です。両人の描写も対照的であり、激しい応酬に劇的ムードは最高です。鬼佐渡坊は『評判記』に出てこない端役です。寛政という時代に歌舞伎が民衆へ大きく接近し、民衆芸能として成長してゆく、そのような時期であったればこそ、このような端役も描く異才写楽が出現したのでしょう。
東洲斎 写楽 Toushusai Sharaku