市川男女蔵の金谷金五郎 艶鏡
大判錦絵35.7×25.7cm
落款:歌舞妓堂艶鏡画
板元:不明
所蔵:リッカー美術館
寛政八年正月桐座で上演された二番目狂言『隅田春妓女容性』に登場する役柄を描いたものです。この芝居は寛政から文化初期にかけて、初代桜田治助とともに、江戸の劇壇を牛耳った並木五瓶の代表的作品で、金谷金五郎は梅の由兵衛の娘(吉原に身を沈めて小三と呼ぶ)と恋仲になる役。
写楽のような重厚さはありませんが、見るものに与える印象はきわめて強く、大きな髪、誇張した顔面表情。肩より下の部分の思いきった簡略描写など、艶鏡ならではの技法がうかがえます。色彩の配合も複雑ではありませんが、かえって絵を生かしています。黒襟と黒茶色の着物との間の緑は特に画面を引き締めていましょう。艶鏡は写楽の描写様式を踏襲した唯一人の作家といわれ、現在まで知られる作品は全部役者絵です。写楽と異なる描法は、眸にみられ、黒目と虹彩とを描き分けている点です。内容性の追求には、写楽ほどの鋭さはありませんが、遺品の少ない点と独特な描写法とによって役者絵のなかで占める地位は確固たるものがあります。
東洲斎 写楽 Toushusai Sharaku