七代片岡仁左衛門の藤原時平 豊国
(「菅原伝授手習鑑」寛政八年七月都座)
大判錦絵 39・2×26・0cm
落款:豊國画
板元:山口屋忠助
所蔵:酒井コレタション
前掲18図と同じ演目の『菅原』の車引きの場に登場する、片岡仁左衛門扮する藤原時平の大首絵であります。公家悪という役柄を象徴する、漆黒の王子鬘に、金巾子の冠を着し、タワッとねめつけた、この敵役の肥大魁偉なマスクは、画面いっぱいにすさまじい迫力を放射してきます。両眼に施した金粉は、一層この役の悪魔的性格を助長し、原作の「……眼の光、千世界の千日月一度に照らすが如くにしてL打ちかかる勇猛な梅王・桜丸兄弟をたじろがせる威風を如実に伝えます。パプタは、鼠潰しの地色に、薄く雲母を摺り込み、その沈んだ光沢は、一種の品格をこの絵にもたせています。
仁左衛門は京都出身の上方役者、天明七年(一七八七)に名跡を継ぎ、寛政六年十一月江戸に下りました。肥満体ではありましたが、四肢躯幹の釣り合いよく、音声朗かで、やがて好評を得、帰阪後も江戸へ二度来ています。豊国の、最もよき時代の、彼の長所が見事に発揮された出来ばえの作品であります。
歌川豊国 Utagawa Toyokuni