初夢 参 豊国
大判錦絵 三枚続 39・2×26・1cm
落款:豊國画
板元:丸屋甚八
所蔵:リッカー美術館
注連飾り・譲葉・裏白などを飾った部屋で花魁が矩燧にもたれてまどろみ、振袖新造は、百人一首を歌仙絵ともども納めた節用集風の本を手によみあげて、禿が二人カルタの取り札を争います。正月の室内風景ですから、太夫の見る初夢も、鶴と亀の遊ぶ海上の宝舟に七福神がつどう図になっています。ただし、この七福神がすべて人気役者の似顔にしてあるところが、女性のあこがれを代弁する浮世絵らしい構想であります。美人の髪型、豊国の落款から享和初期の作と見られ、役者の似顔は、弁財天=岩井粂三郎・大黒=市川男女蔵・夷子=市川八百蔵・布袋=嵐38・福禄寿=尾上栄三郎・寿老人=沢村源之助・毘沙門天=五代松本幸四郎と判じられます。美人の顔には歌麿晩年作と通じる硬さがうかがえ、役者似顔は個癖を強化するきざしが見えます。また従来分離しても各図独立性のあった三枚続きの絵組が、全図を続けて一図をなす方式へ転化する緒をも見せ出しています。過渡的な作柄のうかがえる作品。
歌川豊国 Utagawa Toyokuni