三美人・花 豊国
大判錦絵揃物 39・4×26・1cm
落款:豊國憲
板元:?
所蔵:酒井コレクション
雪月花は、四季の変化に富む日本の伝統的な自然美の象徴。早くから画題にとられ、また三つ組みや三つ揃いの趣向として見立てられます。浮世絵には類例がはなはだ多く、掲出図もこの見立系列に属します。それぞれ職種を異にする三美人を配して変化を図り、花は町芸者、月は花魁、雪は辻君を描きます。爛漫と咲く桜花の下、延鏡で顔をなおす芸者の姿が荊郷つぽい。図案化した干鳥を散らした裾模様が、いかにもこの女性の好みを表し、江戸前の機知のなかに思わぬ近代味を見せておもしろいです。特に顔つきが写生にもとずいたらしく、ふしぎな個性味を宿しています。花魁は月下弾琴図の当世風見立のおもかげが見られます。打掛けの萩の総模様が月光に映える萩の野を思わせます。辻君は本所吉田町辺の者ですか。白手拭いをふきさらし、つぼめた破れ傘を片手に、辻行燈の前に雪を踏んで立った姿は、文化期特有の凄艶味を発揮しています。
歌川豊国 Utagawa Toyokuni