筒井筒 春信
中判錦絵 28.7×21.1cm
落款:春信画 板元:不明
桐の花咲く井戸端に、相愛の少年と少女が立ちます。男の子はなにやら語りかけるように、恥じらいにうつむく少女の肩を抱きかかえます。幼い二人のどことなくぎごちない仕草が、まだ淡い恋の情趣をさりげなく表しています。
表題に記したように、本図は『伊勢物語』の有名な挿話一筒井筒」を、当世風に見立てたものです。幼なじみの二人が成長したのちもなお慕いあい、親の反対にもかかわらず目出たく結ばれるという筋ですが、このとき男の送った「筒井つつ井筒にかけしまろがたけ過ぎにけらしな妹見ざるまに」と、その返しの「くらべこし振分髪も肩すぎぬ君ならずして誰かあぐべき」という二首の和歌が。『この図を鑑賞する前提として準備されています。あたたかな色感に統一された図柄のおおらかな構成は、見る人に違い少年の日をなつかしく想い起こさせ、いっときの甘いまどろみを許してくれます。「郷愁の詩人」春信にふさわしい、夢幻的な絵画世界です。
鈴木 春信 Suzuki Harunobu