役者舞台之姿絵・たち花やあふみや 豊国
大判錦絵 揃物 35・8×23・2cm
落款:豊國画
板元:和泉屋市兵衛
所蔵:酒井コレクション
似顔と屋号から見て、「たち花や」は三代市川八百蔵であり、「あふみや」は中山富三郎ですが、その役名考証については、先学諸家いずれも見解を異にしています。故山村耕花氏は寛政七年正月桐座『再魁霖曾我』二番目狂言における富三郎の丹波屋お妻と八百蔵の古手屋八郎兵衛とされ、故井上和雄氏は同六年十一月桐座『男山御江戸盤石』の富三郎の芸妓兼富、八百蔵の佐伯蔵人に擬し、故吉田嘆二氏は同六年三月都座『五人男』の富三郎の滝川に八百蔵の雁金文七と考証しておられます。うち吉田説は図中に文七の象徴マークの雁金紋が見えず疑問、井上説は絵本番付からは当否はつけがたいです。ただし落款、特に画の字の筆法は寛政七年のものが適合し、山村説に妥当性があります。ただ二番目狂言は正月でなく二月から付加されました。当図はこのシリーズ中唯一の二人立作品である点珍しくまた出来もよいでしょう。豊国としては構図の変化を求めて試みたのでしょうか。ぐにゃ富とあだ名された富三郎の演技や色立役の八百蔵の芸質がうかがえそうな作品であります。
歌川豊国 Utagawa Toyokuni