市川男女蔵の奴一平 写楽
大判錦絵35.0×24.0cm
落款:東洲粛寫棄画
板元:蔦屋重三郎極印
所蔵:オットーリーゼ「赤橘枠」と愛称される作品です。鈴木重三氏は、従来は男女蔵十四歳のときの青年役者を描いたものとしていましたが、それより数年は経ている時のものと考察しています。そしてこれは『恋女房染分手綱』の涼みの段で、奴一平が江戸兵衛に川金を奪取される場面であるとしました。したがって第21図の「二代大谷鬼次の奴江戸兵衛」と組み物になり、鬼次の懐から手を突き出して相手に挑みかかるため肌を脱ぐ寸前のポーズと対して鑑賞すべきです。
丹波の城主由留め木家の家臣伊達与作の下僕一平は、与作の子与之助を馬子にしたりして、主人のほ話をあとあとまでよくみる人物です。この役を『評判記』では「立ち役上上吉」と評して、好演であったことが知られます。
祐枠の紅と襟の黒の対照はあざやかであったと思われますが、槌色しているのが残念です。鯉口を切って刀を抜き、敵を目前にみてのポーズで、静かなたたずまいは、動の前の緊張感を表す効果を出しています。
東洲斎 写楽 Toushusai Sharaku