墨梅図 ぼくばいず Bokubai image. 雪舟 Sesshu
紙本墨画 一幅 90.9×40.5cm 東京国立博物館
墨梅は墨松、墨竹などと共に、古く申国唐時代から文人墨客に好まれた画題てある。
この清楚な姿は聖者の風格があるところから、文人墨客は無論、禅僧間に理想の姿として描き伝えられた。清らかて馥郁とした芳香を放ち、節度のある枝ぶりなどが、それを象徴している。林和靖が梅を愛した故事にも因るが、日本ては菅原道真の説話も伝えられ、この風は禅的環境のもとて大いに発展し描かれ、渡唐天神の説話も、室町時代初頭から生まれたほどてある。
日本ても水墨画の初期から描かれていたが、この画様はそれと異なり、太い幹から出た枝に、梅花と蕾を付けた明画の影響をここに示している。このような濠洲の墨梅について、雪舟作を疑うものもいるが、何を根拠にそれを否定するのか理由がわからない。
雪舟が包蔵している奥行の深さを探求すれば、まことに驚くべきほど多様な技法なり、自由な発想を抱いていたことに気付く。これだけ大胆てしかも筆勢が鋭く、墨色に峻烈な発色を現わした画境を、如何なる人の作に擬すか、むしろそれを証明する方が困難なくらいてある。たしかに図上には賛が賦されていたてあろうが、今これは剥脱されていて、もとの賛詞は不明になっている。この「墨梅図」の品格と用墨の点て、雪舟作たることは間違いはない。
Sesshu 雪舟