東西南北之美人 家方の美人仲町 重政
大判錦絵 揃物 36.8×26.2 cm
落款:なし 板元:不明
所蔵:東京国立博物館
この絵にも左のはじに一行に書き入れがあります。それは「安永五申年春の末夏の初メ しゆすぴろうどの錦画…………此頃此地の風情……」。安永五年の夏ちかく、この地、つまり東方・深川の仲町あたりで、しゅすやぴろうどを着用するのが流行で、錦絵に写されているといった文意のようです。
シリーズ名は柱形に「東西南北之美人」となっていて、北は「北廊よし原」、南は「品川」、西駅は「内藤新宿」、これを当時名だたる四岡場所とよび、あるいは悪所でもありたわけで、ここには多くの美女佳人の城が幾棟いらかをきそっていました。深川は羽織芸者などと呼ばれて最も江戸の風土になじんだ粋な芸者が、江戸情緒を謳いあげていました。この絵は天明期の作、重政の代表美人画ですが、その四年には未曾有の飢饉に見舞われ、とくに東北地方が苛酷で、家のため親のために犠牲となり、人買いに連れ去られて吉原に身を沈める、聞くも哀れな小娘たちが見られました。政治貧困がなせる江戸の繁栄でもあったのです。
北尾重政 Kitao Sigemasa