三代沢村宗十郎の大星由良之助 豊国
(「江戸花赤穂塩竃」寛政八年四月桐座)
大判錦絵 35・4×24・9cm
落款:歌川豊國画
板元:上村与兵衛 極印
所蔵:東京国立博物館
豊国は寛政八年頃から目立って役者大首絵を制作し出しています。寛政六年の写楽作品に刺激を得たのではないでしょうか。その顔面スペースは写楽よりも大きく、描写は写生に近いです。それに版の効果が微妙に生み出す賦彩の諧調を精緻に勘案して入念に仕上げています。
この宗十郎の由良之助などその好例であります。肉体の描線は淡褐色、衣裳は薄鼠と濃墨等数種版を使い分け、質感表現とアクセント付与とを成功させています。表情も見事ですが、眼中にほのかに施した筆彩の藍と、鼻先の、これも筆彩の胡粉とが、この絵に生気を与えています。役柄は二つ巴の紋から大星由良之助であることは明確で、狂言は寛政八年四月桐座の『江戸花赤穂塩竃』が該当します。ただ従来著名な城明け渡しの姿と見る向きがありますが、眉間に寄せた疑惑気味の皺や、手に短刀でなく扇をもつところから、むしろこの芝居の見せ所で「ゆらの助蜂の巣場大当たり」と評判された、巣に群れる蜂に兇変を知る場面と見るべきでしょう。
歌川豊国 Utagawa Toyokuni