封じ文 川又常正
紙本著色 40.8×56.5cm
落款:常正筆
所蔵:東京国立博物館
若者が着て来た着物を脱ぎすてて、浴衣にかえ湯殿にはいろうとするところ、女はその衣類をたたもうとして、袂の中から封じ文を探り出し、何か声をかけるので、男は艶冶なまなざしでふり返るといった場面の構図であります。あまり見かけない図柄でしょう。川又常行・常正らは京都の画家であろうと推定される人で、肉筆美人風俗画が比較的に多くのこっています。常行の方が線描が細麗であり、画題も豊富であるが、常正の作にはこうした美人図が多いようであり、線性格は様式化の傾向をみせています。技術的には常行に劣るうらみを感じさせるけれども、情緒的なとらえかたでは一段の風趣があって捨て難い。この絵はいかにも妾宅らしい小じんまりとした内奥での生活の一断面を写すものであって、製作年代は宝暦頃と見てよいでしょう。
川又常正 Kawamata Tsunemasa