浮絵和国景夕品川見通シ之図 豊春
大々判錦絵 30・0×43・4cm
落款:歌川豊春画
板元:西村屋与八
所蔵:リッカー美術館
題の和国景夕は、他の類似題に和国景跡の字を用いていますから、もちろんこの誤用でしょう。単調感を覚えさせる屋外の浮絵を制作してきた豊春は、屋内と、その屋内の窓格子を境とする屋外とを無理のない遠近法で接着させて、画面に変化を与えるよう努めています。屋内は題から見て品川の妓楼でしょう。遊女の髪型が張出し方の強い燈寵髪になっていますから、安永も大分はいった頃らしいです。遊客たちはその顔がそれぞれ特徴を見せて描かれているところを見ますと、通人か何かモデルを写したものと思われます。人物が彼の常の浮絵より大きめのことも、こういう想像を起こさせます。屋外は品川の海ですが、その海面が心持湾曲して描かれている点、よくいわれる地動説を聞きかじり、地球であることを知った所産とも受け取れますが、あるいは見たままの感じで写生したかもしれず結論は出しにくいです。豊春としてはこれまでの密画的遠望描写から対象を整理して選び、やがて発達する風俗画的風景画の生まれる前駆的作品といった感が強いです。
歌川豊国 Utagawa Toyokuni