国貞 江戸自慢・五百羅漢施餓鬼
大判錦絵 揃物 36.6×25.4 cm
落款所蔵五渡亭國貞画 板尤:伊勢屋利兵衛 極印
静嘉堂文庫
この題名のシリーズは、江戸の年中行事中夏秋の景物に取材したコマ絵を配し、季節感の横溢した美人画で構成されています。制作は文政初年。掲載の五百羅漢は、本所にあった天恩山五百人阿羅漢禅寺で、特に著名な三匝堂をコマ絵に取り上げ、シンボライズしています。この寺で毎年七月一日から晦日まで施餓鬼の法会を修し、ことに16・21・25・晦日が大施餓鬼で、参詣人が雑踏しました。
陰暦七月といえば暑い最中です。暑さにむずかる幼児を幌蚊帳に入れ、添え乳して寝かせつけようとする母親の、ほほえましい下町辺の家庭風俗がよく描き込まれています。蚊帳の縦横の線は、重ね摺りによる版画技法の長所を十分に発揮して、本図鑑賞の重要モメントを形作っています。
この構図が国貞の創案でなく、喜多川歌麿の上村版無題大判のそれによる所の大きいことは既に指摘されています。しかし同図にある小女を取り去り、本図の方が主題を明確に押し出し、煩雑感がなく好ましい図柄となっています。
歌川 国貞 Utagawa Kunisada