ニ代山下金作の仲居おかね実は貞任妻岩手御前 写楽
間判錦絵31.8×21.7cm
落款:寫巣画
板元:蔦屋重三郎極印
所蔵:フィラデルフィア美術館
天王子屋は天王寺屋のあやまりで山下金作の屋号、そして里虹は俳号。この十一月の顔見世に上方から江戸にきた金作はすでに六十六歳という高齢でした。この年の冬、七歳の大童山文五郎の相撲とこの金作の江戸入りが世人の噂をにぎわしました。写楽はこの二大トピご題にしているのは、浮世絵が常に世人の関心に注意をむけ取材しているとはいえ、なかなか抜け目のないことです。
この作品で注目されるのは目の蔵形で、ひときわ特色をもっています。金作は晩年にこの作品のごとく体が肥満したため、それを契機として濃艶な情事役から離れて、女武士道または敵役を得意とするようになりましたが、この目の形はあくどい意地悪な敵役を表現するための描写ともみられます。さらにこの上方から下ってきた老役者の顔は、上方絵師の流光斎あたりの絵本を参考にしたのはなかろうかと鈴木重三氏は述べておられますが、上方絵の影響をたしかに感じる作品です。
東洲斎 写楽 Toushusai Sharaku