国芳 猫飼好五十三疋
大判錦絵 三枚続 左35.6×24.4 cm
落款:一勇讃國芳戯画 板元:伊場屋仙三郎 名主双印
角書にある地口とは今でいう語呂合わせ、つまり一般周知の事項を声音の似通った語で置きかえ、違った意味を作り出して、そのユーモアを楽しむ洒落です。この江戸特有の滑稽感覚を、生来猫好きの国芳が、東海道五十三次の宿駅名を骨子に、猫の百態に関係させつつ、数十場面の図に注入してまとめあげたのがこの快作です。題名はいうまでもなく東海道五十三次のもじり。煮物のだしに使う鰹節を二本曳き出す「二本だし(日本橋)」から、咬えられた鼠の叫び「ぎやう(京)」まで、各駅名に付会した地口の発想と、表現した猫の生態とは、順を解かせる域を脱して、ここまで猫の千姿万態の観察に没入した国芳の姿勢に畏敬の念を起こさせます。白、黒、褐色と限られた単純な毛色の配置を考え、パッタを暖かいピンク地にした色彩感覚も、カラリスト国芳の一面をよく伝えます。猫の動作は生き生きとして、しかも茶気を帯び、国芳の面目躍如とした秀作です。嘉永元年頃の作。
歌川 国貞 Utagawa Kunisada