紅つけ 歌麿
大判錦絵 38.2×25.4cm
落款:歌麿筆
板元:上村与兵衛
所蔵:リッカー美術館
わが国では、美人の条件の一つに口の小さいことが数えられていました。そのため、お歯黒で歯を染め、唇の内側だけに紅をさして、口を小さくみせる化粧法が、平安時代(十吐紀)から行なわれています。
お歯黒をすませ、紅をさそうと、化粧に熱中する女性の真剣な姿が描きつくされています。ばいという貝に似た結髪、太い黒襟のついた室着、帯をただ結んで後にたらした服装が、この場の雰囲気を伝え応いる。そして歌麿は、肥痩のある描線を最小限度に用いて、この豊満な肉体美の描写に成功しています。下半身にやや形式化した描写法が感じられますが、膝の部分の曲線も、後の作品にくらべて丸い曲線をみせており、立て膝にした左足の描写も不自然さを感じさせません。黄潰しの広々とした背色によって、こうした描写はいっそう生気を与えられています。
喜多川歌麿 Kitagawa Utamaro