螢狩り 春信
中判錦絵 27.9×21.0cm
落款:存信画 板元:不明
所蔵:リッカー美術館
若衆と娘が連れ立って夜の川辺に出歩き、螢狩りに遊ぶところ。飛びかう螢を彫りのこしたr5-の地は夜闘を啼示する例の手法で、その下方薄藍の水の流れには。河骨の花が黄色く光り、燕子花がひそやかに紫の花弁をうずめています。虫網で螢をとらえる若者は、輪つなぎの模様を染め抜いた藍色の着衣に、紫縞の頬かぶりをつけています。虫離を手にかたわらで見まもる美人は、紫の地に蕨手を抜いた振袖を着ますが、それは、下着や足元を透かして見せるほど蝉の羽のように薄いです。
夏の夜、無心に虫を迫う二人の男女は、美しく、清楚に整えられた場景の中で、さわやかな恋の情緒を演じおおせています。
鼻筋がとおり、小さな目元をつぼめた人物の顔は、春信のつくりあげた典型的なスタイルであり、冷いほどに感情を抑制したその表桁は、かえって無量の想いを内に秘めかくしているようです。春信美人の無表情こそ、まさに雄弁にまさる沈黙といえるでしょう。
鈴木 春信 Suzuki Harunobu