紅葉舞い 春信
中判錦絵 28.8×20.9cm
落款:なし 板元:不明
所蔵:ボストン美術館
紅葉の葉が降りおちるなかを、美しい踊子が、二本の傘をあやつって踊り舞います。活動的な舞踊の挙措をひるがえる袖や裾のさばきで支える構成は、韻律的な曲線をつらねながら安定した均衡を保っています。紅と紫、藍と黄というわずかな色彩が、品格高く配合されて、調和に満ちた画㈲をゆるがすことがありません。
春信は生前「我は大和絵師なり。何ぞ河原者の形を画くにたへんや」と語っていたといいます。たしかに、紅摺絵時代をのぞきますと、歌舞伎の舞台に直接取材した作品はみられません。しかし、音曲や舞踊にも無関心ではいられませんでしました。舞踊図としては、本図や「三番叟」のような単発の版画ぽかりでなく、判式は小判ながら、「今様踊八景(一部は「風流踊八景」と題します)」のシリーズも発表しています。演舞の流れのうちにもっとも美しく緊張した所作を見出し、動態の一瞬を画㈲に定着させようとする仕業は、画家の意欲を誘うに充分な魅力をもつのでしょう。
鈴木 春信 Suzuki Harunobu