国芳 荷宝蔵壁のむだ書・猫じゃ猫じゃ
大判錦絵 揃物 35.4×25.3 cm
落款:一勇斉國芳戯(画) 板元:伊場屋仙三郎 名主双印
国芳が得意とした戯画の中でも、その斬新味で知られる一作。土蔵の白壁に釘で引っ掻いたようなタッチで、役者の似顔の特徴を、巧みにとらえて描出した、機知と奇想のあふれる作品です。腰壁の黄色い三枚組物一種、薄墨腰壁の二枚組物一種と、類作で「白面笑壁のむだ書」の題をもち腰壁のない、三枚組物一種、都合三種八枚が知られています。その第一のものの一枚をここに掲出しました。着想の奇抜はどれも面白いですが、これは構図のバランスが特によいです。中央の手拭いをかぷった両尾の猫股は完全に現代漫画に通じるセンスをもちます。しかもこの猫は思い付きで描かれたものでなく、弘化四年七月市村座上演「尾上梅寿一代噺」の岡崎宿の怪猫の場の奪胎であることが、同作に出演する市村羽左衛門の月本因幡之助の似顔をすぐ上に配している所から容易に察せられ、実を踏まえた滑稽の見事さに感嘆させられます。制作年代は他の狂言の上演時を勘案すると嘉永初期と見られます。題名の「荷宝蔵」は「似たから蔵」にかけていることはいうまでもありません。
歌川 国貞 Utagawa Kunisada