英泉 日光山名所之内・裏見ヶ滝
大判錦絵 揃物 37.8×25.7 cm
落款:渓斎英泉寫 板元:山本屋平吉 名主単印
所蔵:酒井コレクション
日光荒沢山中に懸かる荒沢滝は、突出した岩鼻越しに水が奔出するため、その岩下の窪みに身を入れ、滝の裏側を兇られたので、裏見の滝の名で知られた奇勝でした。芭蕉はここを訪れて、「岩洞の頂より飛流して百尺千岩の碧潭に落たり………暫時は滝にこもるや夏のはじめ」と、句を添えて『奥の細道』に印象深く記しています。また、碩儒安井息軒も、その『束遊紀行』に、「華厳最壮、裏観最奇」と、巨海華厳の滝と併べて賞め賛えています。この名勝は惜しいことに明治三十五年九月二十八日の大暴風雨で岩が崩壊し、俤は失われました。しかし、英泉は相当リアルに当時の状景を、彼の日光山名爆シリーズ全五枚中の一枚に描き残してくれました。流水落下の様相を、このような朽木模様の連続の形でとらえた画家はかつてありませんでした。創作版画にも似たこのセンスは近代感覚に直結し、しかも版画の特性がまたよく生かされています。集中同様表現の華厳の滝と並び、動感に満ちた佳作です。弘化年間の制作。
歌川 国貞 Utagawa Kunisada