貞秀 横浜売り物図絵・唐物店之図
大判錦絵 三枚統 左36.4×25.6 cm
落款:五雲亭貞秀隻 板元:大黒屋金治郎 改印
所蔵:神奈川県立博物館
新開港地横浜に対する一般の関心は異常に高まり、報道を使命とする浮世絵師はこの地の紹介に専心しました。横浜絵はこうして多量に生産されましたが、絵師中の随一は貞秀でした。鋭い観察眼と犀利な描線による精緻な描写は、単なる報道以上に、芸術的な香気をただよわします。人物を得意としますが、器財描写にも当図のような、すぐれた作品があります。副題に示すように唐物店、すなわち横浜で営まれた外国商品の売店の陳列品を描いたものですが、発想・構図ともにはなはだ近代味に富み、この絵師のすぐれた才能を十分うかがうに足ります。前景は、びん・コップ等硬質の珍奇な調度類に、黒羅紗、おなんどびろうど、狸々緋等の軟質の舶来敷物類を取り合わせ、背景には右半に満帆風を孕んで荒浪の騒ぐ沖合を走る異国船を描いた銅版油絵、左半はおだやかな洋上に煙を吐いて浮かぶ蒸気船と短艇を扱った油浮絵彩色画(おそらく油彩画)と、硬軟・動静の対比が澄んだ色調で快く表現されています。
歌川 国貞 Utagawa Kunisada