八代森田勘弥の由良兵庫之介信忠 写楽
細判錦絵31.7×14.5cm
落款:東洲粛寫渠画
板元:蔦屋重三郎極印
所蔵:シカゴ美術館
『神霊矢口渡』の狂言を取材した作品は、全部細判のもので六枚が残されています。これらは一図として駄作はなく、秀作揃いです。前述したごとく、講和をすすめる穏健派の兵庫之介が、宗純の過激な交戦主張に困惑している様子がよく現われていましょう。
この作品で注目されるのは、柿に描かれている亀甲模様のあざやかな図案である。写楽の作品に出てくる衣服の模様には図案としての確かな手法を覚えさせるものが数点あります。このような点から、写楽を蒔絵師と考える研究家もあります。しかしそれほどまでに考えることはいかがかと思いますが、たしかに写楽技法の一面について、図案的なセンスに富むことを認めなくてはなりません。画面上方に「森田勘弥 後坂東八十助」という書き入れがあります。勘弥の八十助襲名は享和元年(1801)ですから、この作品の制作された寛政六年(1794)から少なくとも七年以降の書き入れとみることができます。写楽作品のうちで特色豊かなものといえましょう。
東洲斎 写楽 Toushusai Sharaku