今様芸婦風俗・身仕廻のてい 湖竜斎
間判錦絵33.0×22.7cm
落款:湖龍斎圓板元:不明
所蔵:酒井コレクション
明和七年(1770)に春信が没しますと、しだいにその強い影響力から解き放され、安永年間にはいるころには、湖竜斎自身の画風を打ち出してゆくことになります。本図はそうした安永期の、湖竜斎が版画方面にもっとも生彩に富む活躍をみせた頃の作品です。
この「今様芸婦風俗」のシリーズは、当時江戸の市中で人気を集めつつあった芸者の風俗を写すもので、各図には、短冊形のうちにシリーズ名が記され、そのそばに草書体でそれぞれの図が主題とする風俗の態を示しています。本図「身仕廻のてい」には、座敷に出る前の身仕度をする芸妓二人が描かれます。鏡台に向かって髪をととのえる女とその後方に立つ半裸の女の人物描は、春信の繊弱な美人とはことなる現実感を加えて、いかにも安永期の。今様”美人らしい溌渕とした雰囲気を伝えています。ただ、背後にすえられた屏風の画中画がいかにもわずらわしいです。武家に出る湖竜斎の、やや無骨な気質があらわれたものでしょう。
鈴木 春信 Suzuki Harunobu