桟橋の美人 政美
絹本著色 81.9×33.3 cm
落款:北尾政美画
所蔵:フリヤ美術館
隅田川のほとり、いきな料亭からのお召しを受けて、たそがれのまじまじ時に、脂粉の香をただよわせ、なまめく衣裳に身をやつした女は、仲居に足もと提灯にてらされて、桟橋の突端へと道ひろう。今宵の首尾、お大尽のことども話を交わしているらしく、女のまなかいには、遠くて近いあでな情景がまぼろしに浮かぶのでもありましょうか、眸はすわって輝くのです。提灯には「つたや」とあり、蔦の葉の定紋をうっています。
この画幅は一八九八年フリヤ氏の集蔵するところです。政美は蕙斎と改号してからは肉筆に親しみ佳作名品も多いですが、政美時代の遺作は稀れだとするスターン博士と、私も同意見です。また政美の美人画は師重政だけでなく勝川風に傾斜していますし、その特色は豊春・豊広あるいは栄之のような画家に比して、エレガンスに欠け、たけ低く重厚であるとする説にも同感です。重政初年の作とみられ、一種の行きづまりが、画者政美にも感じられたことでしょう。
北尾政美 Kitao Masayoshi