ニ代中村野塩の道成寺 豊国
(「京鹿子娘達成寺」寛政八年二月都座)
大判錦絵 39・4×26・3cm
落款:豊國画
板元:和泉屋市兵衛
所蔵:ネルソンーギャラリー・アトキンス美術館
二代中村野塩が、寛政八年二月都座で上演した『京鹿子娘道成寺』の舞台姿であります。野塩の芸は、師の中村富十郎の風をよく写していたといわれますから、師が宝暦三年(一七五三)に演じて好評を取り、爾来しばしば演じた『京鹿子娘道成寺』の所作事は、手にはいった出来であったと想像されます。烏帽子をつけていますから、この舞踊のまだ初めの部分、乱拍子でも終えて急の舞にかかったあたりか、あるいは「、鐘に恨みは数々ござる……と砕ける手前か、足どりに荘重味を見せ、構えに位も備えたこの俳優の芸格を、豊国はよく描き出しています。画面にやや補色があり、鐘は草色、烏帽子の紐と衣裳の観世水の模様は紫であったと見られ、主調の紅色に映えた効果の美麗さが想察されます。この時のワキ僧は坂東彦三郎と二代中村仲蔵という腕きき揃い。評判を取って、「古今大当たり、五月廿日まで百日興行」を続けた由が伝えられています。数ある道成寺錦絵中、すんなりした出来の好図であります。
歌川豊国 Utagawa Toyokuni