嵐三八の伊豆の治良祐兼と市川男女蔵の鬼王新左衛門 国政
(「大紋日花街曾我」寛政十一年一月市村座)
大判錦絵 39・1×26・0cm
落款:國政画
板元:鶴屋喜右衛門
所蔵:酒井コレクション
寛政十年頃から国政は役者二人立ち図を描き出します。全身図となりますと、国政の才も技倆の若さを蔽いかね、バランスのくずれが目につきます。本図はしかし、やや全身に馴れかけた寛政十一年の作だけに、まとまりのよい構成を示しています。傍記した役から、同年正月市村座『大紋日花街曾我』に登場する嵐三八の駕昇殿様蛇之助実は伊豆の次郎祐兼と、市川男女蔵の鬼王新左衛門を描いたものと判定できます。三八は寛政九年大阪から江戸に下った俳優。肥満体のふてぶてしい顔から実悪を専門としました。男女蔵も肥満型ですが、こちらは立役専門。曾我狂言の敵役伊豆の次郎と、実直な鬼王新左衛門とは共にはまり役で、おそらく呼吸もあったことでしょう。上下に見合った視線のピッタリ一致するこの絵がそのような想像を起こさせます。なおこのおおどかな両人の見得は、勝川派あたりに見る古風な様式の伝統を連想させます。
歌川豊国 Utagawa Toyokuni