三代豊国(国貞) 坂東しうかの橋本屋抱白糸
大判錦絵 36.0×24.7 cm
落款:豊國画 板元:恵比寿屋庄七 改印
所蔵:二階堂浮世絵文庫
三代豊国の晩年の役者絵は、マンネリズム様式のため、ほとんど顧慮されませんが、最晩年、おそらく一世一代の似顔模範作を集成しようという意気込みで制作した錦昇堂版の役者大首シリーズには、彼の真剣な姿勢が察せられます。時代が近く、手がけた経験の残っている近年の俳優は、故人でもすぐれた作品が生まれ、この「坂東しうかの白糸」はその好例です。しうかは三代坂東三津五郎の養子、安政二年四十三歳で没した名女形で、伝法肌の女性役を得意としました。嘉永五年三月市村座の『隅田川対高貿紋』における鈴木主水の情婦、新宿橋本屋の女郎白糸は特に好評で、その顛れた美しさの俤が、この大首絵から十分汲み取れます。工芸美的な細緻な製版技法はこの優の体質まで表現しています。ちなみにこの画集は六十図まで知られていましたが、なお、校合摺り八図の存在が記録に残り、うち二図は報告されていますが、他の不明六図中、今回さらに二図(嵐三八の鵜飼い九十郎、少佐川常世の尾上)を発見しましたので、参考図として掲載しておきます。
歌川 国貞 Utagawa Kunisada