国芳 あふみや紋彦
大判錦絵 37.8×25.8 cm
落款:一勇斎國芳画 板元:江崎屋吉兵衛 極印
燈を消した部屋内に、高めに設けた柳子窓から、水のような月光が流れこみ、窓の桟越しに明暗の縞を織りなし、しどけなく帯を解きかけて横すわりした芸妓の影を畳にクッキリと落としています。左上、オランダ鏡枠形中のコマ絵に、大川に漕ぎ出した船から筑波山を遠望する景が描かれているところを見ますと、この室内は、宮戸川付近の船宿の二階でもありましょうか。提灯のあふみやは屋号とみられます。美人の顔や姿態にはまだ硬さが感じられ、文政末か天保初期か、ようやく売り出した国芳の、若い果実のような緊張味がみなぎっています。
紫の曙染めの着付けの、白くトンボを抜いた地味な裾模様に対し、帯の華美な更紗模様のエキソチックな気分とが好対照を形作ります。芸妓の腕にかけた薄藍染めの手拭いに「みつ」と白抜き文字のあるのは彼女の名前らしいです。この図と同じ版元で、同じデザイン枠のコマ絵をもつ一図がなおあり、女性は年増で「こう」と記し、障子の隙から雪景色を眺めています。両者対をなすものか、他になお花の図でもあるのか、ともあれ、若い国芳の意欲作という名に値する図柄です。
歌川 国貞 Utagawa Kunisada