英泉 秋葉常夜燈
大判錦絵 三枚続 左38.4×26.5 cm
落款:渓斎英泉画 板元:上村与兵衛 極印
おそらくは料亭の裏木戸あたりの風情と受け取れます。黄昏時、焔幅が飛び交う夕月夜の下、送りの提燈に足もとを照らされつつ、常夜燈の前を、小棲をとった芸子が、音曲の抜き本らしい小冊を手に、低唱しながら歩を運びます。彼女を待ち受けて空駕龍に凭れ、霞小紋の羽織を抱えた黒襟の女は、茶屋の女房でもありましょうか。そしてそのうしろには、芸子の妹分らしい、やや年若の女が控えて立っています。月はこの三人と駕寵と、そして駕履わきに愛くるしくうずくまる仔犬の、それぞれの影をクッキリと地面に映し、さわやかな良夜の感覚が、この絵一面にみなぎっています。英泉の洗練された感覚は、描写に過多も不足もなく、まったく必要かつ十分な素材を適所に布置して、しっとりとした情緒をただよわせたこの優品を産み出しました。江戸末期の花柳情調を、ここまで的確に描写した作品は少ないです。英泉の腕に油の乗り出した文政五年頃の制作、彼の三枚続き作品中、私は第一に推す秀作です。
歌川 国貞 Utagawa Kunisada