英泉 今世美女競・水茶屋
大判錦絵 揃物 38.4×26.3 cm
落款:渓斎英泉画 板元:佐野屋喜兵衛 極印
外題の読み方は、前図で説明した理由によります。副題の水茶屋は、市内の盛り場などで、客を休ませ、茶を供する店、今ならさしずめ喫茶店に相応する所です。ここに看板娘になる美女を置き、これが錦絵の題材によくとられました。当図のこの美女も、どこかの評判娘でしょう。右手にしたのは、茶碗を受けて運ぷ茶托で、この器具でこの女の職業を暗示しています。体のくねらせ方に一種独特の癖が見られますが、このポーズが後期英泉の美人画に最もよく用いられる様式で、彼の嬌艶美を規定する主要要素にもなっています。また前図にも試みられていますが、眼中を青くいろどり、下唇の先に緑を点じて京紅の玉虫色に光る効果を見せようとした工夫など、妖しい轟一惑美が、この時代の英泉の女には創出されています。噫せるような女性の体臭を執拗なまでに画中に描き込むのがこの時代の英泉でした。当図の女性の手にする包み紙は、「御かほの御薬 美艶仙女香」とあるように、京橋の坂本氏が製作販売した白粉仙女香の包みで、同店のコマーシャルです。
歌川 国貞 Utagawa Kunisada