英山 風流名所雪月花・雪
大判錦絵 組物 38.6×26.3 cm
落款:菊川英山筆 板元:和泉屋市兵衛 極印
この図を右端に位置させ、中央に月、左端には華の図を配した組み物の形で、和泉屋版のこの外題の作品は、三幅対の図柄を組成します。月の図は、縁先越しに海を見晴らす座敷で髪を直す立ち姿の遊女を描き、状景から品川と見られ、華は桜樹下の縁台に腰を下ろした打ち掛け姿の花魁が花に興ずる態で、これはいうまでもなく吉原ですから、残る当図は、前二者との釣り合い上、深川の景と見られます。雪の桟橋に立つ深川芸者を描いたものでしょう。黒の塗り下駄に映える白い素足に、雪にもめげぬこの地の芸妓の心意気を見せています。胸もとにわずかにのぞかせた紐は、肌身につける懸守を吊ったものと見られます。左手でとった小棲の裾のひるがえりに、川面を渡って吹く風の強さを偲ばせ、さすがに傘をおさえる手は袖口でおおっ。た描写に写生眼の緻密と、ポーズの自然とを感じます。雪の白と、川波の青とが、美人の黒を主調とした着付けと調和して、快い味を出しています。文化前期の作品。
歌川 国貞 Utagawa Kunisada