英山 花あやめ五人揃
大判錦絵 揃物 39.7×26.9 cm
落款:英山筆板元:和泉星巾兵衛 極印
所蔵:リプカー美術館
花あやめは、あやめ(菖蒲)の別称。幾分美称の感を含みます。
いずれかあやめ、かきつばた(杜若)と、選に迷う花のような美人を五人揃えたシリーズの意味で本図の題は付けられたものと見られます。掲載図以外になお同題のものが二図あり、一つは台の肴をせせる二美人、他は三味線を弾きつつ唄をさらう二美人で計五人となります。ただし構図は続き物でなく組み物の形をとります。当図は妓楼の廊下に柱を擁して立つ花魁で、顔つきは歌麿を模した英山独特の愛くるしい印象を持ちます。だがそれ以上に、この遊女のポーズは、歌麿の絵本『吉原青楼年中行事』下之巻きにある「押客之坐舗」(いろきやくのざしき、と読むと思われる)の図の右半、柱を巻くよび出し、すなわち最上位の吉原遊君の姿に似ている。少なくとも相似た情景を写したとはいえましょう。情人に逢うまなざしがそこはかとなくうかがえ、色気も添います。遊女の衣裳にはきめ込というレリーフ状の効果をもたらす技法が施され、作の入念さを思わせます。
伊賀屋の行事副印があり、文化八年七月の作と考証されます。
歌川 国貞 Utagawa Kunisada