中山富三郎の宮城野 写楽
大判錦絵36.7×23.8cm
落款:東洲粛寫巣画
板元:蔦屋重三郎極印
人一倍ながい顔と吊り上がった眉毛の描写、この奇怪な取り合わせに対して、頬から顎にかけての柔らかい流れるような曲線は、はなやかなそしてなめらかな印象を強く見る人に感じさせます。富三郎は「ぐにゃ富」というニックネームをもつ名女形で、柔軟な身振りがその芸風となり、このような名前がつけられたのでしょうが、この宮城野もどことなくやさしさを感じさせます。また眉と鼻の接近したところに細い目を添えている顔貌もその異名に近いようで、写楽の写実的な手法がそれをよく物語っているようです。
また色彩的にはあまりはなやかさをもたせず、いくつもの描線が目立ち、抑揚をつけた線と手の描写にみえるタッチをみせない柔らかい線とを使いわけて効果を上げています。「丸に三五花桐」は富三郎の定紋です。心憎いほどの作品で、写楽の描写が外形的写実に終始しない、内面の性格描写にもするどく及んでいることを感じさせます。宮城野は志賀大七に殺される松下造酒之進の遣児姉妹の姉です。
東洲斎 写楽 Toushusai Sharaku