茶ひき臼 春信
中判錦絵 28.6×21.5cm
落款:春信画 板元:不明
所蔵:ボストン美術館
小春日和の陽射しをうけて、縁先近くすえたひき臼にもたれ、心地よさそうにうたた寝をする産児、かたわらにこれを見おろす美人が立ちます。縁側には、山茶花を一輪いける竹筒の花器が置かれ、その奥にのぞく庭の一部には、水につかる車の輪と、杉の木に山茶花がそえられています。描き込まれる図柄の一つ一つが、それぞれふさわしい持ち場にゆったりと配置されて、中判という比較的狭小な画面にもかかわらず、おおらかな雰囲気を生み出しています。冬の日のn.ドり、奥まった屋敷内に訪れる無為平安のひとときが、美しく理想化されて写しとめられています。
それにしても、低劣な欲求に応えるところがまったくないこうした春信の版画が、いわゆる「庶民」の好尚にそのまま合致するものだったのでしょうか。春信描く錦絵は当時かなり高価なもので、客種も武家や大商人に限られていたといいます。浮世絵師春信の絵画世界をより正しく理解しようとするとき、その支持者層についても考慮する必要がありましょう。
鈴木 春信 Suzuki Harunobu