六玉川・調布の玉川 春信
中判錦絵 27.8×20.9cm
落款:なし 板元:不明
鼠色の川辺と藍色の水流という単純化された背景の中で、田舎娘とも思えぬ美しい女が、紅の筰もかいがいしく純白の布を水に晒します。空摺りによって表された二枚の布は、まるで生きもののように踊り乱れて、宛転と走る曲線のみにより描かれたこの図の表現効果を、さらに一層きわだたせています。
「調布の玉川 定家 たつくりやさらす垣根の朝露をつらぬきとめぬ玉川の里 武蔵の名所」と記す色紙形は、その枠取りに引かれた直線が明晰な印象を画面に導入して、ひたすらに流麗な図の勁勢をひきしめ、おさえるよう役立てられています。落款の置きどころひとつにも注意を配る(本図は無款)のが絵師の心得にはちがいありませんが、春信は、画㈲上に参加する以上いかなる脇役にもそれなりの働きをつとめさせようとする、巧みな演出家でしました。中判という小画㈲に完結した小宇宙を実現させようと、鋭くとぎすまされた理知的な意匠感党は、彼の画風を迫う亜流画家の作品に認めがたい特質です。
鈴木 春信 Suzuki Harunobu