縁台の涼み 春重
中判錦絵 28.2×21.5cm
落款:春信画 板元:不明
所蔵:東京国立博物館
「春信画」の落款を記しますが、本図は第50図と同じ春重によるにせ物です。浮世絵版画が大量販売を前提とする大衆向けの出版物であった以上、時の流行絵師は誰しもが、あからさまな贋作や、特色のある作風をそのままうつした亜流の作品に苦しめられています。明和年間の浮世絵界を風扉した春信は、ことにその被害をこうむること大であったはずですが、政信や歌麿のように格別それをいきどおった風には見えません。
しかし春重による贋作は、当時見破るものがなかったという自身の告白にもかかわらず、自然と馬脚があらわれてしまいます。それはやはり、春重こと江漢の強烈な個性が、他の個性への同化を容易に許し得なかったからでしょう。本図でもまた洋風の遠近表現を好んで採川し、その背景の中で納涼に憩う男女も、濃密な詩的情緒とは無縁な、かわいた存在のままに投げ出されています。春信の落款をもちながら真作と認めることに躊躇する作品も多いですが、春重の于になるものは比較的見分けやすいのです。
鈴木 春信 Suzuki Harunobu