役者絵 春章
細判錦絵 32.8×14.6 cm
落款:登草図 板元:不明
所蔵:酒井コレクション
初代中村仲蔵の近江小藤太と三代大谷広次の鬼王(「御眺染會我雛形」安永三年正月中村座か)
中村仲蔵と大谷広次の役で、暗夜松柏のもとで立ち回り果たし合いする舞台面を描いた図です。舞台装置のうしろ暮れよろしく、松の樹幹から枝葉は絵のような形で、黒いパックに描き出されています。その前でたすきがけ紅色の向かう鉢巻きに自装束の二人が広次は尻もちついて下から利剣をつき上げ、仲蔵は上から大上段の構えでうちおろす構図となっています。そうした命のやりとりという緊迫した瞬間の描写には、卓越した表現力が要求されるでしょう。
さすが春章はその「つぼ」を心得ての絵を作っています。それには人間のボリュームとその動作の感触を的確にその瞬間的場景の中で描出する力がなければなりません。またその動きは線性格の相応の表現力をマッチさせることによって得られます。頭のてっぺんから足指の先まで、凝結する気合いに集約する求心性を完現する春章の芸風は、非凡というべきです。
勝川春章 Katsukawa Syunsho