鳥追い・尾上菊五郎と中村喜代三郎 豊信
大々判紅摺絵 44.8×31.9cm
落軟:咀額堂石川秀把豊信図 板元:鱗形展孫兵衛
所蔵:リッカー美術館
尾上菊五郎と中村喜代三郎を描くものであろうが、第59図の佐野川市松と中村粂太郎の場合と同様に、それぞれの個性的なものは姿相の上にも容貌の中にも、むとは描出されていません。どちらを菊五郎といっても、ああそうかと通りそうな目鼻だちであります。
次期の役者絵界は、春章や文岡らによる俳優の性格描写で新生面をひらくのでみって、それまでは鳥居流の役柄中心で俳優の個性を抜きにした作風が基調をなしていた。豊信の作風は芝居道における約束などを守るものではなく、俳優を借りての風俗描写といった趣致であります。一種の美人画でしょう。胡弓を弾奏する若衆と三絃を弾く美女が、揃いの衣裳つけて道行く、優にやさしい相姿で、それを簡潔な紅摺りで仕
上げていますので、描現の鮮麗さがかもす名状すべからざる純美感が、文句なしに観者を魅了する。風流至上の世界であります。
石川豊信 Ishikawa Moronobu