雪 国安
大判錦絵 揃物 38・5×26・3cm
落款:國安画
板元:会 極印
国安の感受性は鋭いです。筆も切れるように立ちます。その彼が、文化末年、最も脂の乗り切った時期の制作で、おそらく彼一代の傑作と見られる雪月花の三幅対をここに紹介します。題材に選ぶ美人や背景に彼ははなはだ気をつかったあとが見えます。花は隅田の夜桜に芸妓、その襖橋付近の情景から、いわゆる「上手」と称される隅田川上流のあたりらしいです。ものういような春の朧夜の風情をここまで描き込んだ作品は他に求めがたいです。はらはらと散る花びらにも詩があります。月は川をずっと下にくだった鉄砲洲付近、佃を望む水上の笞舟に一人月を眺める船饅頭。夜寒に懐手して襟にあごを埋めたじだらくなポーズが何ともいえず、風情と凄味とを渾溶した作品。月光に映える海面の描写も迫真感があります。雪は吉田町辺の夜鷹でしょう。抱えた菰にそれと知られます。踏みしだいた雪上の下駄のあとに寒さを感じ、夜鷹のポーズもよいですが、前二図の卓抜さの前には一等を輸します。雪の降り方の規則的な描写がこの絵の感銘を幾分薄めています。
歌川豊国 Utagawa Toyokuni