国芳・広重・三代豊国 芳流閣・ふぐ・仙人
大判錦絵 36.7×25.8 cm
落款:一勇斉國芳画 廣重 英一婦虚板元一不明
この図のような様式を張交絵といいます。同一絵師が異なる画題を取り合わすものもあれば、異なる絵師の作品を配することもあります。当図はこの後者。右半上部に広重がふぐとねぷかを蕭洒な筆さぱきで描き、下半部には三代歌川豊国が英一鰐といういかめしい号で、剣に乗って浪を走る仙人を、彼が崇敬した英一蝶の筆致を模して描いています。この仙人は上利剣らしいです。『北斎漫画』の三編に、向きは違うが似た姿があってこの名があります。残った左半、中短冊形の画面を国芳が担当し、彼はこの細長い制約を巧みに生かして芳流閣の大屋根のスロープを主題にとりました。曲亭馬琴の著名作『南総里兄八犬伝』中でも知られた犬塚信乃と犬飼現八の決闘場面ですが、鬼瓦の陰に激闘の疲れを癒やしつつ迫る敵をうかがう信乃のリアルな姿と、この強敵を見上げて身づくろいする現八の歌舞伎の見得的なポーズとが、屋根の稜線を通じて緊迫した感情を走らせています。仰角を取り入れた構図がさらに立体感を添え、中間に雁の飛ぶ円月がえもいわれぬ詩情をただよわせて、この小画面に深みと格調を与えています。
歌川 国貞 Utagawa Kunisada