虫範 歌麿
大判錦絵 38.1×26.0cm
落款:冴麿筆
板元:近江屋権九郎
所蔵:ギメ美術館
茶と濃い縁の飛尽くしを散らした巾松模様で。パックをつぶし、虫腹に兄人る半身像の女性を描いた本図は、まずそのバックの処理が、従米の歌沢両に例をみない手法であるため注口される。歌麿は、春信が背景と人物との調和を計り、その両者が融介することによって、情況や動作の表現を行っていた浮世絵人物画に、時刻、場所といったものを明示することに成功しました。さらに清長によってより完璧な表現法となった画法を、歌麿はあえて打破し、無背景とすることよって、女性自身の美しさを印象的に描写し、表現しようとしました。そうした斬新な表現を行おうとした歌麿が、なぜこのような煩雑な印象を与える作画を行ったのかと疑問が浮かびますが、本図の女性の‐の描写法をみるとき、その疑悶は解消します。
上瞼を太く、下瞼を細く描き、唇をほころばせた描写によって、この女性の豊かな表情美を表現しようとしていることに気付きます。その点にこの作品を見る者の視点を集めようとする工夫がなされているわけです。
喜多川歌麿 Kitagawa Utamaro