ニ代市川高麗蔵の亀屋忠兵衛と中山富三郎の梅川 写楽
大判錦絵37.3×24.5cm
落款:東洲粛寫楽画
板元:蔦屋重三郎極印
所蔵:バリ国立図書館
写楽の大判作品のうちで、全身二人立ちのものが合計七枚知られていますが、そのうち六枚は背景が白雲母摺りの作品であるのに対して、この絵だけが黒雲母摺りになっています。
大阪浪華十八軒の飛脚屋亀屋へ養子に行った忠兵衛が梅川に馴染み、放蕩の金に困り、丹後屋八右衛門から為替の金を催促されて、偽金をつくり、また為替の金の封印を切って、追われる身となります。そこで忠兵衛と梅川は乎に手をとって死出の道行きとなります。黒雲母の背景が二人の暗黒の死への恐ろしい心理状態をよく表し、その黒のなかに白粉を塗った素足や手や顔が浮きたち、のびのぴとした描線とあいまって、恋愛の甘い雰囲気がただよい、歌舞伎の舞台美がここに再現して見るものを陶酔させてしまいます。『月眉恋最中』の浄珊璃所作事における道行きの場面です。相合い傘に、対の小袖はこの世にて遂げられぬ二人の心情に対してのあわれさを一段と深めています。
東洲斎 写楽 Toushusai Sharaku