坐鋪八景・塗桶の暮雪 春信
中判錦絵 28.5×21.6cm
落款:巨川摺物
所蔵:シカゴ美術館
塗桶とは綿つみ川の器具で、真綿を上にのせて引きのばすのに用います。塗桶にかぷせられた白い綿を、高山のいただく白雪に比したもので、いうまでもなく、満湘八景中の「江天暮雪」の見立絵です。ここで指摘しておかなくてはならないことは、手前で臭綿のばしの作業をしている少女の姿態が、ほとんどそのままの図柄で、京都の浮世絵師西川祐信の絵本『百人女郎品定』に見出されることです。呑信は祐信の絵本を種本としてしばしば図様を借用していますが、この「坐鋪八景」のシリーズはその傾向がことに顕薯で、本図にかぎらず各図に二人あて登場する女性の多くが、祐信絵本の中にその原型をもつこと、本文にも指摘する通りです。
また、本図の後方で煙管をもつ年増の女は、その片膝を立てたポーズに、素人女とも思えないなまめかしい風情を衣わしています。あるいはこの女は、昼は綿つみを業として世間をあざむき、夜ひそかに存を売る私娼の、いわゆる”綿つみ”であるかも知れません。
鈴木 春信 Suzuki Harunobu