雨夜の宮詣で 春信
巾判錦絵 27.7X20.5cm
落款:なし 板元:不明
所蔵:東京国立博物館
横なぐりに降る激しい雨足もいとわず、それも提灯の火を頼りの夜半に女ひとり、何を祈ろうとして神社への道を急いできたのですか。破れ傘からのぞかれるのは、まだ年若い乙女の顔だちですが、裾を乱し帯をなびかせたその姿は、風雨に抵抗する意外な強靭さを内に秘めています。一途に燃える恋の想いは、かよわい娘をこれほどまで大胆な行動へと駆り立てます。
春信は、そうした乙女ごころのいじらしさを描きたかったのでしょう。絵暦川の「隆の時参り」と通じる、春信好みの主題です。
朱塗りの鳥川に玉垣、それに四本の杉の木という簡財な道具立で、夜参りの場景を確火に設定する無駄のない環境描写は、あたかも芝居の書き割りを見る思いがします。また、画面の全面に斜めに走る雨条は音をはらんで、劇中の一場面を切りとったような虚構の迫真性を保証します。人物とそれを囲み支える背景とが緊密につながって浪漫的な主題を強調する、破綻のない春信画の典型が、みごとにここに成就されています。
鈴木 春信 Suzuki Harunobu