東海道五拾三次之内49番目 土山宿 つちやま Tokaido53_49_tsuchiyama 画題:「春の雨」 現在の滋賀県甲賀市で、阪之下から9.8キロメートルで土山宿である。
鈴鹿峠を下ると土山宿の麿を祀った田村神社がある。杉木立の亭々と空にのびる境内の手前に田村川が流れている。田村川の流れ、田村神社の神域に材をとって雨の絵を描いている。
この絵は、まさに春の雨、暖かい春雨の気分が描かれている佳作である。庄野・蒲原・亀山の三大役物の次ぐ作品と評価されている。この雨は夏の雨でも、秋の雨でもない。なにもかもしっとりと濡れに濡れる静かな春の細い雨で、雨足がよくそれを表している。その感じが、橋を渡る大名行列の先鋒の仲間たつの俯いた姿勢でも示されている。左田村川の流れ、雨で水かさの増した流れの色が、春の水の暖かさを、さらに感じさせている。境内の暗さも、音もなく降りしきる春の雨に煙った情緒を持った薄暗さである。
歌川 広重 Hiroshige Utagawa