甲州犬目峠 こうしゅういぬめとうげ Inume Pass. Koshu.
現在の山梨県上野原市を描いたもので、甲州街道の野田尻から少し行くと犬目という宿がありました。犬目宿から桂川沿いの下鳥沢宿へと下る途中の峠を描いたといわれています。裾野から頂上に向けて三色に描き分けられた富士。北斎にしては珍しく、大らかでのんびりとした雰囲気の作品です。近景に置かれた山の緑の鮮やかさも初夏の空気を感じさせ、爽やかな気持ちにさせてくれます。
舟越しの富士図をいくつか続けて見てきましたが、今回は、甲州街道犬目宿の峠越えの富士です。
この富士を身近に体験したいという思いは、人工の富士塚でなければ果たせないものでしょうか。ここに、北斎と版元の工夫がありました。すなわち、一般には富士塚と思われていない様相の中に、富士塚、富士の神霊世界を見つけ出して、それを浮世絵を見る庶民に指し示そうとしたのです。したがって、富士を背景とする近景にこそ、趣向の面白さが注がれているのです。
葛飾 北斎 Hokusai Katsushika