役者絵 文調
細判錦絵 32.4×15.5 cm
落款:一筆斎文調両 板元:不明
所蔵:メトロポリタン美術館
中あふミ屋内半太夫
宝暦の末ごろから作画をみる文調は、春信を中心として当世の文人数奇者ら協力して錦絵を創成し、浮世絵の勃発的な隆昌を迎えますと、湖竜斎・文調・春章・重政らの新人を輩出し、美人画に役者絵に技をきそいました。文調は役者芝居絵革新の旗頭ですが、美人画にも少数ながら見るべきものを存しています。お仙・永楽・いつみやの美人のような市井の明眸も描き、行楽風俗も写し、また遊里の情緒(すがた八景、墨水八景)などから遊女の美貌、多角的な作域です。それらは明和・安永の交両三年、短期のことのようです。
この細判の半太夫と称する遊女図をみますと、たそがれどき、格子先を立ち出でて座敷へ向かおうとする遊女半太夫の、じっと瞳をこらしていますが、視点にあてがあるでなく、何か心のうち身のほどに思い入れてうら悲しげです。冠冒の半太夫さままいる結び文が、ひそめて想わせます。春信風が出発ではないとすれば、明和の人の胸にある一種の女性観とすべきでしょう。
一筆斎文調 Ipitsusai Buncho